「SfMとMVSによる樹木の体積推定に関する研究」

M1 山村 舜

果樹のボリュームを「見える化」する:カメラ1台で挑む精密な収穫予測

果樹農家にとって、その年にどれくらいの果実が収穫できるか(収量)を予測することは、経営を左右する極めて重要な作業です 。その指標の一つとして、樹木そのものの「体積」を測る必要があります 。

「だいたい」の計測から「確かな」データへ

これまでの現場では、樹木の「幅」や「高さ」をメジャーで測り、それらを掛け合わせておおよその体積を計算していました 。しかし、樹木の形は一本一本異なり、デコボコしていたり枝が複雑に伸びていたりするため、単純な計算には限界がありました 。また、測る人によって誤差が出てしまうのも大きな悩みでした 。そこで私たちは、「デジタルカメラで撮影した写真から、樹木の正確な3Dモデルを作り出す」という解決策を提案しています 。

従来のメジャー計測と3Dモデル化の比較イメージ

写真を「立体」に変える2つの最新技術

この研究の鍵を握るのは、バラバラの写真を立体へと変換する「魔法の計算」です 。

1. SfM (Structure from Motion):視点の変化から形を探る

SfMは、いろいろな角度から撮った写真に写っている共通点をAIが見つけ出し、カメラの位置と物の形を同時に割り出す技術です 。

例えるなら: 歩きながら景色を見る際、近くのものは速く、遠くのものはゆっくり動いて見える「見え方の違い」から、脳が距離を判断する仕組みをコンピューターに行わせる技術です 。

2. MVS (Multi-View Stereo):密度を上げて「肉付け」する

SfMで作ったモデルはまだスカスカの状態であるため、そこにMVSという技術を使って厚みを持たせます 。

例えるなら: SfMが「テントの骨組み」を作る作業だとしたら、MVSはその骨組みに沿って「びっしりと布を張る」作業です 。これにより、密度の高い点群データができあがります 。
SfMとMVSによる3Dモデル構築プロセス

「空っぽの模型」に命を吹き込む工夫

写真から作った3Dモデルは、当初は表面だけの「中身が空っぽな風船」のような状態です 。そこで本研究では、表面データに囲まれた内側を「中身が詰まっている」と判定してデータを補完し、本物の木に近い立体モデルを完成させました 。さらに、サイズが既知の段ボール箱を一緒に撮影することで、デジタル上のモデルを実寸大に調整する(スケール補正)工夫も行っています 。

スマートフォンを活用した将来の収穫予測イメージ

農業と3Dモデルが織りなす「デジタル農園」の未来

実験の結果、この手法で木の形をデジタル再現し、その体積を数値として捉えることに成功しました 。現在は計算が少し小さめに出てしまうといった課題もありますが、補正の精度を高めることでさらなる進化を目指しています 。

もし、スマホで写真を撮るだけで瞬時に「今年の収穫予測は◯◯キロです」と表示されたら…… 。そんな未来では、農家の長年の「勘」が、誰もが共有できる「確かな数字」へと変わります 。農業と3次元技術が融合した、スマートでクリエイティブな農業の姿がすぐそこまで来ています 。