3次元画像処理における環境認識の研究

<1−研究目的>

我々の研究室では、「人間がコンピュータと自然かつ自在にコミュニケーションをとれる環境」のシステム構築を長期目標としている。この環境を親和的情報空間(FICS: Friendly Informative Cyber Space)と呼ぶ。本研究では、この親和的情報空間を構成するエージェント群の中のステレオ物体認識エージェントを取り上げた。ステレオ物体認識エージェントは、3次元形状復元過程と物体認識過程に大別される。本研究では、3次元形状復元過程に着目し、屋内環境を対象にステレオ法を用いた3次元環境モデル作成の研究を行った。復元過程の自動方式は、昨年度の研究で提案されている。これは、光軸を並行に設定したステレオカメラを用いて3次元形状復元を行う方式である。この手法は対応付けおよびカメラ校正が容易であるという利点を持つ反面、共通視野が狭い為に室内などの広域環境の3次元形状復元には不適であるという問題点があった。今年度はこの問題に対処する為、自由に設定されたカメラから撮影した1対のステレオ画像からステレオカメラの幾何学特性を表す基礎行列を自動的に計算する手法を考案した。

<2−3次元環境モデル作成の処理の流れ>

3次元環境モデル作成の処理の流れは、前処理と微分処理、特徴点候補抽出および選択処理、対応付け、基礎行列計算、3次元情報推定およびVRML呈示である。以下に各処理の内容について述べる。尚、特徴点抽出および選択処理は前年度研究における手法を利用している。

 (1) ノイズ除去処理と微分処理  前処理として、ノイズ抑制に有効であり、面領域の境界でエッジを保存するメディアンフィルタを入力画像に施した。また、物体の境界周辺を特徴点候補抽出処理の探索範囲とするため、エッジ強調処理を行った。

 (2) 特徴点候補抽出および選択処理  対象物の特徴点である角点を抽出するのに有効であるHarris Corner Detectorを用いた。また、Harris Corner Detectorの最も角点に類似した場所でレスポンス関数が局所最大の出力を持つという特性を用いて、特徴点候補の中から対象物上に存在する真の特徴点の選択を図った。

(3) 対応付け 各特徴点対に対し、対応付けの正しさを定量的に評価する信頼性評価値を計算し、閾値処理より正しい対応付けを求めた。また、特徴点を中心とするマスク画像において、特徴点の位置関係を利用して対応付けの精度の更なる向上を図った。

(4) 基礎行列計算  両カメラ間の情報をもつ基礎行列を、8点の対応点対から求めた。基礎行列Fと対応点m1、m2の座標の間には、(式1)の基礎方程式が成り立つ。  

…(式1)

(5) 3次元情報推定およびVRML呈示  基礎行列から透視投影行列を求め、推定した各特徴点の3次元座標からVRMLでワイヤーフレームモデルを生成した。

<3−実験結果と考察>


図1 室内環境の対応付け結果

図1に、台車を移 動物体として含む室内環境における対応付け結果を示す。移動物体において2組、それを除く室内環境において6組、正しい対応点対が得られた。図2は同環境の3次元推定結果である。対象物の位置的なずれ、形状のゆがみは少なく、ほぼ正しく推定された。また、同環境において本手法を含む3つの手法で求められた基礎行列の精度を評価の為、(式1)の計算における誤差を求めた。基礎行列の計算手法として、本手法をAとし、閾値処理のみで得られた対応点対を8対選び計算する手法をB、全対応点対を使用して最小2乗法により基礎行列を求める従来手法をCとする。表1に結果を示す。本実験では、目視で確認した正しい対応点対16点を対象とする。


図2 3次元推測

表1.基礎行列の精度評価実験

 

手法A

手法B

手法C

平均誤差

0.143

5.406

0.175

最大誤差

0.781

0.884

0.639

 

 

 

平均誤差は本手法が最小となり、本手法の有効性が確認できた。

<4−まとめ>

提案した基礎行列推定法は、精度評価実験により有効であることを示した。また、3次元形状復元においては、物体の位置的なずれは少なく、物体認識過程において有効なデータとして利用できる。以上より本研究で考案した3次元形状復元方式は、3次元形状復元過程のシステムとして有効であることが実証されたと考える