複数移動物体が存在する環境下での状況認識・呈示の研究

<1−研究目的>

我々の研究室では、「人間がコンピュータと自然かつ自在にコミュニケーションをとれる環境」のシステム構築を長期目標としている。この環境を親和的情報空間(FICS: Friendly Informative Cyber Space)と呼ぶ。 本研究では、この親和的情報空間を構成するエージェント群の中の移動物体追跡エージェント、及び、認識結果呈示エージェントを取り上げ、背景差分をベースに複数の移動物体追跡を行い、その追跡結果をネットワークを通してリアルタイムに呈示するシステムを開発し、実画像を用いて提案手法の有用性を確認する実験を行った。

<2−システムの概要>

<2.1−移動物体抽出>  

画像処理による移動物体の追跡の初段処理として、動画像より処理対象を抽出することが一般的に行われる。静止カメラを用いた移動物体抽出の手法は、背景差分とフレーム間差分(時間差分)に大別される。フレーム間差分は移動物体が静止していると差分が現れないなど物体抽出に不安定な要素がある。そこで本研究では、安定して移動物体の全域が抽出できる背景差分をベースに移動物体領域の抽出を行う。抽出された差分結果を一定のしきい値で2値化し、縦、横方向へそれぞれ射影して得られたヒストグラム(以下、位置情報ヒストグラム)を求める。


図2.1 位置情報ヒストグラム

この位置情報ヒストグラムを基に、各領域に移動物体が1つのみ含まれるように領域分割を行い、領域単位で背景画像を更新することにより、背景差分処理の課題であった、背景画像の自動更新及び、対象物以外の出現・消滅や、照明の変化などによるノイズ発生の問題に対処を図った。

<2.2−移動物体追跡>

分割された領域単位で抽出部分の重心を求め、その軌跡より対象物を追跡することで、複数の移動物体の追跡を行う。

<2.3−追跡結果の呈示>

追跡結果から3次元位置を求め、手動で作成した3D環境モデルと合成してアニメーションさせることで、直観的に理解しやすい形でリアルタイム呈示する。

<3−実験結果と考察>

以下の項目で、今回作成したシステムの評価実験を行った。

  1. 単体移動物体の追跡性能評価実験
  2. 複数移動物体の追跡評価実験
  3. 領域分割を用いた動的背景画像更新性能の評価実験

<3.1−(1)の結果と考察>

追跡結果を定量的に評価するため、20秒のシーンを10FPSでサンプルした200枚の画像に対して目視評価を行った結果、追跡成功率は100%であった。また、呈示成功率は98%であった。

<3.2−(2)の結果と考察>


図3.1 複数移動物体追跡の結果画像

左図は移動物体追跡エージェントの結果、右図は認識結果呈示エージェントの結果である。移動物体追跡エージェントにおいて、2人の人物が正しく検出されており、認識結果呈示エージェントにおいても適切に表示できている。呈示のフレームレートは10FPSであった。 また、追跡成功率90.5%、呈示成功率89%であった。誤認識の原因としては人物の重なりが考えられる。

<3.3−(3)の結果と考察>


図3.1 動的背景画像更新の結果画像

移動物体が存在する状況下でも、ノイズ領域部分(荷物の載った台車の部分)の背景画像更新が行われ、その後の移動物体の追跡に影響を及ぼさないことが確認できた。

<4.まとめ>

部分領域単位の背景画像更新処理を取り入れた背景差分をベースに、位置情報ヒストグラムを用いることで、安定した複数の移動物体追跡を行う移動物体追跡エージェント、及び追跡結果をネットワークを通してリアルタイムに3D呈示を行う認識結果呈示エージェントを試作し、実験室シーンにおいて性能評価実験を行った。本研究で開発したシステムは、親和的情報空間の構成要素として有用であると考える。