親和的情報空間構築における顔領域の検出・解析の研究

1. 研究目的

我々の研究室では、「人間がコンピュータと自然かつ自在にコミュニケーションを取れる環境」のシステム構築を長期目標としている。この環境を親和的情報空間(FICS : Friendly Informative Cyber Space)と呼ぶ。本研究では、この親和的情報空間を構成するエージェント群の中の個人識別エージェントに用いる顔領域の検出、解析を行った。

現在において、人物を特定する場合の多くは、カメラの前に静止するなど、人物が何らかの拘束的条件を満たしている事が前提とされている。一方、本研究では、非拘束的に人物を特定することを最優先とし、人物特定において最も重要な顔領域の検出を行い、個人識別エージェントへ適用すべく、顔向きの判別までを行った。

2.顔領域検出及び顔向き判別の流れ

本研究における全体の処理の流れを以下に示した。

3.顔領域の検出

まず、Prewittフィルタを用いたエッジ検出を行い、現在画像及び背景画像の輪郭抽出を行った。次に、背景のエッジを除去し人物の輪郭のみを残すため、現在画像のエッジと背景画像のエッジを用いて差分を行い、その値の絶対値を取ったものを処理画像とした。処理画像と、その明度ヒストグラムを図1に示す。次に数式処理を用いた頭上部のマスクを作成し、処理画像とのパターンマッチングによる顔領域の切り出しを行った。なお、マスク画像は人物の移動などにより顔領域の大きさが変化する場合も考え、人物の位置に応じて変化する可変マスクを使用した。マスクとの当てはめにより、頭上部の抽出を行った結果を図1中の四角形で示す。パターンマッチングにより切り出しを行った画像を時系列的に並べたものを図2に示す。


図1 処理画像及び明度ヒストグラム


図2 切り出し画像

4.顔向き判別

処理画像の明度ヒストグラムを用いて向き判別を行った。『Front』,『Side』,『Back』のうちのいずれかの条件を満たせばそれを表示し、いずれの条件にも当てはまらない場合は『Else』を表示した。なお、向きを判別する際の条件は表1に示した。

表1 顔向き判別に用いた条件と判別率
向き 条件 判別率
Front 黒(髪の色)を少し含み肌色を多く含む 89%
Side 黒、肌色を同程度含む 40%
Back 黒を多く含む 85%
Else それ以外 50%

5.結論

本研究で処理画像による顔領域の検出、及び処理画像の明度ヒストグラムによる顔向き判別が有効であることを示した。この結果より、本研究で開発したシステムは、個人識別エージェントのプロトタイプとして有効であることが実証されたと考える。