情報生体システム工学実験II

アナログ電子回路

最終更新日:2017/10/03

目次

  1. 目的
  2. 実験方法
  3. トランジスタ増幅回路について
  4. 実験1 〜動作電圧の測定〜
  5. 実験2 〜増幅率の測定〜
  6. 実験3 〜周波数特性の測定〜
  7. レポート課題

レポート提出先(学科Moodle)

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目的

アナログ電子回路の基本であるトランジスタ増幅回路について理解する。エミッタ接地小信号増幅回路を組んで、正弦波を入力して増幅された出力波形を観測し、回路素子と増幅率の関係を認識する。さらに周波数特性について理解する。

実験方法

この実験は班毎に行う。班内の学生で協力して実験に取り組むこと。

機材としては、エルビス(ボードとして)、波形発生器、オシロスコープを使用する。

実験はエルビスの上に電子部品を並べて回路を構成し、電圧をかけて電圧値を測定し、入力信号を入れて出力波形を観測する。信号の入力には波形発生器を、信号の観測にはオシロ スコープを利用する。

エルビスは高性能な実験環境を提供する高価な機械である。取り扱いは以下の点に注意して、十分に慎重に行うこと。

  1. エルビス上に回路を組む際は電源を切っておくこと。
  2. 電子回路は静電気に弱いので、なるべく接地することに心がけること。
  3. 配線が多いので、引っ掛けて切ったりすることのないように気をつけること。
  4. 部品をむき出しで配線するので、ショートしないように気をつけること。
  5. 極性のある部品は、接続の向きに注意すること。

レポートについて

レポートは次回の実験の際に収集する。以下の条件を守って提出すること。

トランジスタ増幅回路について

ここでは、トランジスタがなぜ信号増幅に利用できるのかを簡単に説明する。

増幅回路とは

増幅回路とは、小さい信号を大きな信号にする回路のことである。一般にアンプと呼ばれたりする。

たとえば、入力して0.1[V]の振幅の信号が入力された場合に、出力として1.0[V]の信号を出すものである。

図1

上の図1では、入力波形の上下の方向と出力波形の上下の方向とが逆になっている。このような増幅回路を反転増幅回路という。位相が180度ずれている、などとも言うし、位相が反転している、と言ったりもする。

これに対して、位相が変わらない増幅回路を非反転増幅回路という。

入力振幅に対する出力振幅の比率を電圧増幅率と呼び、Avで表す。今の場合は、

Av = 1.0/0.1 = 10

である。電圧増幅率は電圧利得とも言われる。

反転増幅回路であることを示すために、マイナスをつけて、

Av = -1.0/0.1 = -10

と書かれることもある。

振幅増幅回路においては、一般的には周期(=周波数)は変化しない。

トランジスタ効果

トランジスタとは3端子の電子部品であり、さまざまな電子回路の基本となる重要な素子である。(FETには4端子のものもある)

ここでは、2SC1815という非常に広く使われている一般的な用途向けのトランジスタを使用する。

2SC1815の外観は次の図2(a)のようになっている。

(a) (b) (c)
図2

トランジスタの3本の足は、品名が印刷されている平らな面を手前にして、左からエミッタ(E),コレクタ(C),ベース(B)と呼ばれる。(エクボとおぼえるらしい)

また、トランジスタの回路記号は図2(b)のようなものである。2SC1815はNPN型と呼ばれるトランジスタであり、エミッタ接地で使用する場合、ベースとコレクタから電流が流れ込み、エミッタから流れ出す。

トランジスタが正しく増幅動作をしているとき、ベース・エミッタ間の直流電位は約0.6〜0.7[V]の差がある。ベース電位がエミッタ電位より高い。

このとき、ベースから流れ込んだ電流のおよそ100倍の電流がコレクタから流れ込む。この現象をトランジスタ効果と呼ぶ。たとえば、ibが0.01[mA]だった場合、icは1[mA]程度流れるということであり、言い換えれば、ベース端子の少しの電流の変化が、コレクタ端子の大きな電流変化を生む、ということである。

NPN型トランジスタは図2(c)に示すようにN型半導体の間にP型半導体の薄い層を挟んで作られている。ベース・エミッタ間とコレクタ・エミッタ間に順方向電圧がかけられると、エミッタ側のN型半導体の中の電子はベースとコレクタ側に移動する。しかし、中央のP型半導体の部分はきわめて薄く作られているため、多くの電子がP層を突き抜けてそのままコレクタ側に通り抜けてしまう(図3)。

図3

このため、ベース・エミッタ間に流れる電流より、コレクタ・エミッタ間に流れう電流のほうが遥かに大きくなるのである(電流の流れの向きは電子の流れの向きと逆方向)。

トランジスタ増幅回路は、このトランジスタ効果を利用した増幅回路である。

エミッタ接地増幅回路

この実験で使用する小信号増幅回路はエミッタ接地増幅回路である。

エミッタ接地増幅回路の回路図を図4に示す。

図4

左右にある黄色の端子が入出力端子である。

左の入力端子から信号波形を入力すると、右の出力端子から増幅された波形が取り出される。

トランジスタ増幅回路は、トランジスタだけでなく他にいくつかのパーツを組み合わせて構成される。ここでは、以下のような抵抗()とコンデンサ()を組み合わせてある。

記号 用途
Tr 2SC1815 小信号増幅用トランジスタ。
R1 100[kΩ] バイアス用抵抗
R2 22[kΩ] バイアス用抵抗
RC 5.1[kΩ] コレクタ負荷抵抗
RC' 10[kΩ] コレクタ負荷抵抗(交換用)
RE 1[kΩ] エミッタ抵抗
C1 10[μF] 入力用カップリング電解コンデンサ
C2 10[μF] 出力用カップリング電解コンデンサ
C3 22[μF] 電源安定用バイパス電解コンデンサ
C4 0.01[μF] 電源安定用バイパスセラミックコンデンサ

実験1 〜動作電圧の測定〜

実験1では、トランジスタを使ったエミッタ接地小信号増幅回路をエルビスの上に実装し、その回路構成が正しいかどうかを動作電圧を測定することによって確認する。

この実験は以下の手順に沿って進めること。

  1. 図4の回路を構成するために必要な部品を確認せよ。
    1. トランジスタ1個(2SC1815)
    2. 抵抗5個(100,22,10,5.1,1 [kΩ])
    3. 電解コンデンサ3個(10[μF]、22[μF])、セラミックコンデンサ1個(0.01[μF])
    4. 接続用ケーブル
  2. 図5の実体配線図を参考にしてエルビス上に回路を構成せよ。ただし、A〜Iまでの部品がどれであるか、図4と図5を比較して決定せよ。
  3. 回路に電源を供給し、図4のE,B,Cの各点の直流電位を測定せよ。
  4. 動作電位がエミッタ接地トランジスタ増幅回路の正しい電位であることを確認せよ。もし電位が正しくない場合は、回路構成が間違っているので、見直して正しい構成にすること。

図5

実験2 〜増幅率の測定〜

実験2では、入力端子から信号波形を入力し、正しく増幅された出力波形が得られるかどうかを確認する。また、コレクタ抵抗を変えて電圧増幅率がどのように変わるかを確認する。さらに、入力電圧が大きくなったとき、増幅波形がどのように変化するかを確認する。

この実験は以下の手順に沿って進めること。

ただし、振幅を最小にしても100[mV]に下がらない場合は、最も小さくした電圧で実験すること。

  1. 波形発生器から振幅100[mV]、周波数1[kHz]の正弦波を発生させる。
  2. 波形発生器の信号を入力端子から入力し、出力端子の波形をオシロスコープで観測する。
  3. オシロスコープの波形を記録する。
  4. エルビスの電源を切り、コレクタ抵抗RCを10[kΩ]に変更する。
  5. 波形発生器から振幅100[mV]、周波数1[kHz]の正弦波を発生させる。
  6. 波形発生器の信号を入力端子から入力し、出力端子の波形をオシロスコープで観測する。
  7. オシロスコープの波形を記録する。
  8. エルビスの電源を切り、コレクタ抵抗RCを5[kΩ]に戻す。
  9. 波形発生器から振幅1.0[V]、周波数1[kHz]の正弦波を発生させる。
  10. 波形発生器の信号を入力端子から入力し、出力端子の波形をオシロスコープで観測する。
  11. オシロスコープの波形を記録する。
  12. 波形発生器から振幅1.5[V]、周波数1[kHz]の正弦波を発生させる。
  13. 波形発生器の信号を入力端子から入力し、出力端子の波形をオシロスコープで観測する。
  14. オシロスコープの波形を記録する。
  15. 波形発生器から振幅2.0[V]、周波数1[kHz]の正弦波を発生させる。
  16. 波形発生器の信号を入力端子から入力し、出力端子の波形をオシロスコープで観測する。
  17. オシロスコープの波形を記録する。

実験3 〜周波数特性の測定〜

実験3では、入力する波形の周波数が変化すると増幅率がどのように変わるかを確認する。

この実験は以下の手順に沿って進めること。

  1. 図4の増幅回路を構成し、波形発生器から振幅100[mV]、周波数1[kHz]の正弦波を発生させ、出力に500[mV}の波形が出ていることを確認する。 ただし、この場合も振幅が100[mV]まで下がらない場合は、最小電圧で実験を行うこと。(その場合、出力電圧も変わるので注意すること)
  2. 周波数を以下のように変化させて、出力振幅を記録する。低い周波数でも、高い周波数でも出力波形の振幅が小さくなっていることを確認すること。

レポート課題

以下の課題をレポートに解け。

  1. エミッタ接地のトランジスタ増幅回路が反転増幅回路となる理由を説明せよ。
  2. 実験2で、入力波形の振幅が大きいとき、出力波形が正しい正弦波にならない理由を説明せよ。
  3. 片対数グラフを用いて、対数軸に周波数を、もう片方の軸に電圧増幅率をとって実験3の測定結果をプロットし、周波数特性のグラフを作成せよ。グラフの作成は、各自で行ってください。さらにそのグラフを読み、低域遮断周波数flと高域遮断周波数を求めよ。ただし、遮断周波数とは、 電圧増幅率が最大値から1/sqrt(2)倍に落ちる周波数を言う。

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