最終更新日:2010/06/10

情報生体システム工学実験 I

7 アース(接地)・ノイズ

1.はじめに

アース(接地)とは,電子機器の筐体,電線路の中性点,電子回路の基準電位のラインを,基準電位点となる部分に接続することをさします.また,基準電位点そのものを指すこともあります.基準電位点は電力用アースでは一般に地面,エレクトロニクス用アースでは機器の筐体,あるいは近くの大きな金属の塊を用います.

アースには,大きく分けて2つの種類(目的)があります.電気機器や電子機器は,機器自体が大地に対し電位を持つ場合があります.そのような場合に,人が触ると感電し,火傷や死亡事故などを起こす危険があります.これを防ぐため,機器(または,機器の筐体)を大地に接続し,機器と大地の電位差を十分に小さくします.もう一つは,機器が発生させる電磁波や静電気などのノイズの輻射による誤作動・故障等を防ぐためのアースです.

電子機器から発生するノイズは,様々な計測機器を用いて測定・解析を行い,対策を施します.  故障の解析やノイズの計測には,オシロスコープが用いられることがよくあります.

 

2.実験の概要

単純な電気回路をテスタを用いて測定し,基準電位点,アースについての理解を深めます.

簡単な電子回路(無安定マルチバイブレータ)をブレッドボード上に作成し,オシロスコープで波形を観測します.

オシロスコープの使い方の基礎を学ぶことにより,電気信号の測定やノイズ計測の基礎を学びます.

 

3.基準電位点(アース)

3.1 回路の作成

ブレッドボード上に図3.1の回路を作成してください.なお,スイッチについては,リード線を外した状態をOff,接続した状態をOnとしてくださ い.
電源とグランドはブレッドボードからリード線で接続して使います.
 



図3.1 実験回路


 


図3.2 LEDの極性

発光ダイオード(LED)(図3.2)には極性がありますから,注意してください.

 

3.2 実験@

  1. スイッチをOffの状態で,テスタで@〜Bの各区間の電圧を測定してください.
     
  2. 次に,スイッチをOnの状態にして,先ほどと同じように@〜Bの各区間の電圧を測定してください.

 

3.3 実験A



図3.3 実験A

図3.3 の回路において,点Pを@〜Bの区間に接続したときのP−GND間の電位を測定してください.なお,Aの区間では,抵抗とLED間に接続して測定してください.

4.オシロスコープによる発振回路の波形の測定

4-1.マルチバイブレータ


図4.1 安定マルチバイブレータの基本構成

マルチバイブレータ(multi vibrator)は、図4.1に示すように、2段増幅器に正帰還をかけた発振器です.結合素子として抵抗を用いるか、コンデンサを用いるかにより、次の3種に大別されます.

・非安定マルチバイブレータ(a-stable   multi vibrator
・単安定マルチバイブレータ(
mono-stable   multi vibrator
・双安定マルチバイブレータ(
bi-stable   multi vibrator

非安定マルチバイブレータは、2つの状態の間を自励的に交互に往復する回路であり、方形波発生回路としてよく使われています。回路構成を図4.2に、各部の波形を図4.3に示します。また、無安定マルチバイブレータ回路は、外部の信号源に同期して発振させることができます。外部同期を与えない時の繰り返し周波数を自走(繰り返し)周波数と呼びます。


図4.2 無安定マルチバイブレータ回路図

 


図4.3 回路の各部波形例

 

4-2.無安定マルチバイブレータの作成

図4.2の回路図をブレッドボード上に構成してください.


図4.4 作成例

 


図4.5 トランジスタ 2SC1815 のピン配置

トランジスタのピン配置を図4.5に示します.図4.2の回路図と図4.4の写真と見比べて,方向等間違えないように回路を作成してください.なお,VccおよびGNDは先ほどと同様にブレッドボードからリード線で接続してください.

 

4-3.オシロスコープによる波形の測定

オシロスコープは、電気信号の波形を表示するための 装置です.電気機器の故障の解析から,電子回路の動作確認,電気的な自然現象,生体が発する信号の解析など,様々な分野で用いられています.

オシロスコープには,アナログオシロスコープとデジタルオシロスコープがあります.この実験では,Tektronix社製の TDS 1001Bというデジタルオシロスコープを使います.

図4.3.1 Tektronix TDS 1001B

オシロスコープの基本的な操作・設定は,以下の3箇所で行います.これはアナログ・デジタル共通です.

@TRIGER

  • TRIGMENU:トリガ・メニューを表示 を行います.トリガ設定時のチンネル変更などを行います.
  • TRIG/LEVEL:トリガ・レベルの設定 を行います.波形を取り込むきっけをつくるトリガの電圧を設定します.

AHORIZONTAL

  • SEC/DIV:メイン時間軸の水平軸スケールを設定を行います.
  • POSITION:表示波形の水平方向のポジションを調整します.

BVERTICAL

  • VOLTS/DIV:垂直軸の電圧スケールの調整を行います.
  • POSITION:表示波形の垂直方向のポジションを調整を行います.

Cプローブ

プローブは、ボールペン・サイズの本体、その先端には被測定回路に接触させるチップが付き、本体途中からミノムシ・クリップの付いたリード線が出ていて、これがグランドになります.まず最初にグランドを被測定回路の接地点にクリップします。

図4.3.2 プローブ

プローブ先端を測定するポイントに接続し,波形を測定します.

二つ以上のチャンネルを使い,同時に複数個所の測定を行う場合,どのチャンネルがトリガとなっているか注意します.

Dオシロスコープの画面

図4.3.3 オシロスコープの画面の例

次にオシロスコープの画面を見てみましょう.

デジタルオシロスコープの画面では,測定した波形だけでなく,いろいろな情報がゴチャゴチャ表示されていますが,必要最低限の情報は以下の2つです.

@ VERTICAL 垂直軸の電圧スケール

A HORIZONTAL メイン時間軸の水平軸スケール

この二つによって,画面上のグラフの一マスのスケールが判ります.図4.3.3の例では,縦軸1V,横軸1msのスケールで,この波形のpeak-to-peakは5V,1周期(T1+T2)は約1.5msということが判ります. 

 

4-4 マルチバイブレーターの波形の測定

まずは,簡単のために,オートセットモードで測定してみましょう.
以下の手順で測定します.

  1. オシロスコープの電源を投入する.

  2. Ch1 Menuボタンを押します.

  3. 画面横のボタンをProbe−>Voltabe->Attenuation−>10Xと押していきます.

  4. プローブ上にあるスイッチを10Xに設定します.

  5. Ch1のプローブのグランドのリード(ミノムシクリップ)を回路のグランドに接続します.

  6. Ch1のプローブを測定点(@)に接続します.

  7. AUTOSETボタンを押します.

これにより,オシロスコープが垂直軸・水平軸,トリガコントロールを自動的に設定し,信号を画面上に素早く表示することができます.この後,水平位置・垂直位置等を手動で調節して,波形の表示を最適化します.


図4.4.1 プローブの接続

 

   図4.2の回路において,@ABCの各点の波形をオシロスコープで観測し、その波形をグラフ用に記録してください.(基本的には、@ABCの各点の波形において、各々T1,T2は、同じです)測定する場合は,2チャンネルを用いて,T1,T2を同時に測定してください.


 

5. 考察課題

(1) 3章の実験において,スイッチのOn,Offの前後で電圧が変化した区間がありますが,何故変化したのか説明してください.

(2) 3章の実験において,電源のOn,Offの前後で,安全に接触できるポイントは(a)〜(d)のどこですか.また,その理由についても説明してください.なお,接触する対象者(対象物)は回路のグランドに接地しているものとします.

(3) オシロスコープのリサージュモードについて,オシロスコープのマニュアル等を基に説明してください.

(4) ”一点アース”について,調べて説明してください.

(5) 電子回路が発生させるノイズの種類について,調べてください.

 

レポートには実験結果の報告だけでなく,上記の考察課題全てを含めてください.

また,レポートの1枚目は表紙として,必要な事項を記入してください.